ニューヨークタイムスの日曜版にリタリンに関する記事がありました。記事はマンハッタンに住むニューヨークタイムスの記者の子供が小学校3年生の時に学校の担任の先生から「お宅のお子さんは、ちょっと薬を飲むと成績がぐんと良くなるんですけどね…」と言われた所から始まります。
記者の子供は日常生活でADDの症状を呈していなかったため、懐疑的ながらも子供にADDの診断を受けさせ、その後1〜2年の間リタリンを学校にいる間のみ与えたそうです。日常生活ではADDの症状がない為に投薬の必要はなく、ただ学校にいる間だけ子供の集中力を上げる目的のみの投薬だったそうです。結局子供が「もう薬は飲みたくない」と言い出したので投薬を中止したのだそうですが、その後もこれと言った問題はないと言う事です。その記者の子供にとって、リタリンは勉強をする自覚が芽生えるまで、落ちこぼれずに持ちこたえる事ができるような橋渡しの役割を担ったのだろうと思います。
アメリカの裕福な家庭の子供は、このニューヨークタイムスの記者の子供のように積極的にADDの診断を受け、向精神薬がもたらす集中力を子供の学力向上の為にフルに活用します。おそらくその殆どの子供達には投薬の必要はないのだろうと思いますが、より良い学校への入学、ひいてはよりよい仕事につくために向精神薬は利用されます。一方、貧しい家庭の子供、とくに税収が少なく教育に充てる予算も少ない地域の公立学校に通っている家庭の子供は、学校で学業に支障をきたす程の集中力の欠乏が見られても、なかなかADDの診断を受ける事が出来ません。同じクラスの子供達も軒並み学力が低ければ、一人だけ集中力が極度に低下している子供がいても、目立たないという事もあると思います。
裕福で私立学校に子供を通わせている親は、ADDの診断やそれに付随する高額なセラピーなどにも自腹を切るだけの経済力をもっています。ところが貧しい家庭の子供は公立学校に通っている場合が殆どです。公立学校の場合、学習障害にあたるADDの診断を生徒が受ければ、それに伴ったセラピーなどの援助は個別の教育計画をまとめて、学校がセラピー等を提供しなければなりません。ただでさえ予算が少なく、他にも様々な問題を抱えているような学校では、個別の子供に対する学習障害の援助プログラムを行うのはかなり難しいのが現状です。また、学校からの協力がなければ、医師も子供にADDの診断を下す事を躊躇します。
私の友人の子供で、それほど荒れてはいないけれど、学力向上に悩む公立学校に子供を通わせている人がいます。彼女の子供も私の息子と同じ年なので、小さい頃からその子の様子を見る機会がありました。私からすれば、その子は何かの学習障害を持っているように見えます。やりようによっては学校や小児科医と交渉し、子供にADDの診断を受け、個別の教育計画を立てさせる事が出来ると思ったので、私は友人にやり方を教えた事があるのですが、様々な面で忙しい彼女はすぐに諦めてしまい「ウチの子は勉強ができない」という考えに落ち着いてしまいました。
普通の公立学校で子供に何らかの学習障害が有ると思われる場合、それを証明して子供の状況に合った援助を勝ち取るのはアメリカでは簡単ではありません。特に学校がIEP (Individualized Education Program) という個別の教育計画をADDやその他の学習障害を持つ子供に出したがらない場合がよくあるようで、どうやって学校にIEPを作らせるかというアドバイスがネットを検索すると沢山出て来ます。でも、多くの親は私の友人のように、学校に食い下がらないのだろうと思います。学校側も数年間問題を保留して子供達が成長し、卒業してしまうことを期待しているのです。
アメリカの裕福層は子供の成績が伸び悩むと向精神薬を積極的に利用してそれを打開し、ついには良い高校、大学へと進学させる事が出来るのに対し、収入が5万ドル前後の貧乏ではないけれど生活が楽ではないワーキングプアーと呼ばれている階層は、子供に学習障害があると疑ってもその診断を受ける事すら困難です。我が家の場合、何かがおかしいと思い始めてから学校側の協力を得て息子にADDの診断を受けさせるまで3年間かかりました。私の夫は学校でも有名なうるさい親です。
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